壱 月に少女

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 裏路地の角を曲がって、さて、ここから更に人気のない細道に挑もうかというところで、ふと、龍田は誰かの話し声を聞いた。  …何だ?  不意のことに、龍田は足を止めて音を消し、左手を刀の柄に当てて、耳をそばだてた。  …あの襲撃が…。 ふと、龍田の脳裏を忌まわしい記憶がよぎる。  それは、思い出すべきではないことだ。  右腕が痛んでいる。  そうした一切を押し殺すように歯を食いしばり、龍田は周囲を警戒した。  月明かりが…。  路地の闇に差す。  開かれた視界の中には…。  …三人の人影があった。  侍が二人。それと、もう一人は少女である。  月明かりは、更に、射し込んで闇を暴いていく。  恰好から、侍はどこかの御家人だろうか。おそらくは下級武士。身分はそれほど高くないように見て取れる。 少女のほうは、ぐったりと路面に仰向けとなっていて、動きを全くに失っているようだ。  …気を失っているのか…?  …それとも…?  龍田がそんな風に、三人を見ていると…。 「堪んねぇな。…随分と上玉だ。」と、侍の一人が呟いて…。  それから、侍は少女に馬乗りになった。  …あの少女は、二人の侍に襲われているのか?  龍田は深く溜息を吐いた。  そして…。  …少しばかり遠回りでも、ここは、大通りを帰るべきだった。  …帰っていれば…。     
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