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裏路地の角を曲がって、さて、ここから更に人気のない細道に挑もうかというところで、ふと、龍田は誰かの話し声を聞いた。
…何だ?
不意のことに、龍田は足を止めて音を消し、左手を刀の柄に当てて、耳をそばだてた。
…あの襲撃が…。
ふと、龍田の脳裏を忌まわしい記憶がよぎる。
それは、思い出すべきではないことだ。
右腕が痛んでいる。
そうした一切を押し殺すように歯を食いしばり、龍田は周囲を警戒した。
月明かりが…。
路地の闇に差す。
開かれた視界の中には…。
…三人の人影があった。
侍が二人。それと、もう一人は少女である。
月明かりは、更に、射し込んで闇を暴いていく。
恰好から、侍はどこかの御家人だろうか。おそらくは下級武士。身分はそれほど高くないように見て取れる。
少女のほうは、ぐったりと路面に仰向けとなっていて、動きを全くに失っているようだ。
…気を失っているのか…?
…それとも…?
龍田がそんな風に、三人を見ていると…。
「堪んねぇな。…随分と上玉だ。」と、侍の一人が呟いて…。
それから、侍は少女に馬乗りになった。
…あの少女は、二人の侍に襲われているのか?
龍田は深く溜息を吐いた。
そして…。
…少しばかり遠回りでも、ここは、大通りを帰るべきだった。
…帰っていれば…。
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