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序
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それは、慶安二年の冬。
雪の舞い飛ぶ北の小藩での出来事だった。
その日の夕暮、藩主・葛西宗秀(かさい・むねひで)は行軍の途中にいた。温泉での雪見を終えて、城へと戻る帰路だった。葛西宗秀は数十人の護衛役が仰々しく周りを囲んで歩いているのを、馬上から悠々と見下ろしていた。
ふと、その行軍が竹林の間を抜ける細道へと差しかかった時に事件は起きた。
護衛役の一人が、ふと、竹林の中での物音を聞いた。
異常があってはいけないと、護衛役は立ち止まり怪訝そうに竹林を見つめたが、そこには、白い雪を抱いた無数の竹が見えるばかりで、一目に異常は見当たらなかった。人気も少なく雪の深い場所である。だから、きっと竹の葉に積もっていた雪が何かの拍子に落ちてきて物音を鳴らしたのだろうと、護衛役はそう考えた。
そこに「どうした?」と、別の護衛役からの声がかかる。
「いや、何でもない」
「だったら早く戻れ。怠けていると思われて、御役御免になるぞ」と、脅された。
それは困ると、護衛役は行軍へと戻ろうと竹林に背を向けた。
次の瞬間であった。
ボッと鈍い音が竹林に反響した。
音に驚き護衛役が振り返る。
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