幕間 其の壱

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幕間 其の壱

  **  夢を見ていた。  いつも通りの夢。  いつも見る夢。  夢の世界は、紅く…。  …酷い世界だ。  業焔は荒れ狂いながら渦を巻いて、天を衝くほどに高く盛っている。  灼熱に空気が溶けている。  闇まで燃える。  世界は爛れて燃えていた。  私は…。  …ただ、恐ろしい。  炎の中心では、あの男が嗤っているではないか。  …嗤っているではないか…。  それが…。  …恐ろしくて堪らないのだ。  逃げ出したかった。  けれど、夢の中の私は、決まって、動きを忘れてしまっている。  恐怖に苛まれながら、ただ、身体を焼かれるのを待っている。  …私は、酷く脆弱で…。  …恐ろしくて堪らなかった。  この夢を見るたびに思う。  この夢を見るたびに思い出す。  …私は脆い。  この夢を見るたびに、己の弱さに嫌悪する。  …私は危うい。  夢の世界と共に、私の心が焼け爛れていく。  …私は儚い。  私の心が…。  …どうして、私の心は恐怖を拭えない…。  …求めるものは明瞭である。  そう信じて、努力はしてきたはずだ。  …求めるものは…。  そう信じて、多くの犠牲を払ってきた。  十年の月日を懸けて、…だ。  …けれど…。  私は、未だ、この夢を見てしまう。  私は…。  …私は…。  …どうすれば良い?  きっと…。  焔の中心で嗤う、あの男を殺せば…。  …きっと、この夢は終わる、…はずだ。  それが…。  …私の自身の証明…。          …尊厳を勝ち取るのだ。  そうと信じながら…。  その日も…。  …私は恐ろしい焔獄の夢の中に堕ちていくのだ。
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