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参 光斬る刃
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客間の襖を開いてみれば、ユラユラと行燈の火が揺れていた。
部屋が揺らいでいて、その中心には蒲団が敷かれ、そこに、例の少女が眠っていた。
…まるで橙色の湖に沈んでいるようだ。
いつ目覚めるのだろうかと、当然の疑問はあった。
けれど、少女の寝息は実に心地よさそうで、取り敢えずは、大丈夫だろうと思えた。
「脩介ッ。」と、龍田は脩介を呼びつける。
「何ですか?」と、廊下の向こうから脩介が現れた。
忠実な男らしく、中々に迅速な登場である。
「俺は出掛けるぞ。この娘のことも含め、後を頼む。」
脩介に向かって龍田が言う。
「出掛けるんですか?…もう夜が更けてきておりますよ。それに、昼間は室谷様のところに出向いたんでしょうに。…忙しい方ですね、貴方は。」
大して驚きもせずに脩介が言った。
突然の夜更けの外出への対処などは、脩介にとっては、もはや、当たり前の事態である。
「どちらにお出掛けですか?」と、一応の確認に脩介が尋ねた。
「…散歩だよ。月が綺麗だからな。」
龍田が空を見上げる。
外を見れば…。
確かに、空には綺麗な満月が光を掲げている。
「行ってらっしゃいませ。」
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