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「日々人君、ごめんなさい! ちょっとママ! 急にビックリするでしょ!」
慌てて僕を気遣うマルはすぐに向き直り、突如現れた女性を咎めた。
「ごめんなさい。でも、ずっといたのに気づかれなかったから、」
「僕の方こそ、すみません驚いたりして」
なんかバツが悪い。
そんな僕にマルは小さく笑って首を横に振った。
「日々人君は気にしないで。ママ、少し影が薄くて」
「ごめんなさいね、驚かせるつもりはなかったんだけど」
お母さんは小さく頭を下げる。
改めて相貌を拝見すると端正な顔立ちがあった。
透き通る肌と筋の通った綺麗な鼻、瞳はルビーをはめ込んだように美しく輝いていた。
そして、一際目を引くのは背までかかる髪。
一本一本が美しい金糸のように光り輝きさらに美しい光沢を放っていた。
だというのに。
なぜか、全体的に陰があるというか意識しづらい。さっき気配を感じられなかった時もそうだがこれだけ見た目が目を引くのに捉えにくい人だ。
鮮やかな黄金色の髪すら凌駕する影の薄さなのだと失礼ながら感じた。
「いえ、こちらこそ。あ、というかお邪魔してます」
遅くなったけれど僕は挨拶を思い出して会釈する。
お母さんは唇を少し緩めて薄く笑った。
「いらっしゃい。遊びにきてくれたの?」
「いえ、今日は勉強会をしようと思ってきました」
「そうなのね、でも嬉しいわ。マルったら全然友達を家に招かないし。そうだわ、せっかくだからケーキでも買ってくるわね。ふふ」
お母さんは感極まったように声を弾ませた。
「いや、お構いなく! って、」
言うが早いか、お母さんはリビングを後にし、玄関の扉の開閉音が聞こえた。
「なんかごめんね、日々人君」
「あぁ、それはいいんだけど。変に気を遣わせちゃったかな?」
「ううん、日々人君は大事な友達だし遠慮しないで。ほら、ケーキの話もしてたし。私も食べたいし丁度いいでしょ」
数学をケーキに例えた話をケーキの話と纏める大胆さに僕はまず驚いた。
うーん、でもいいのかなぁ?
「気にしない気にしない。ささ、椅子にでも座ってて。飲み物用意するねっ」
マルは僕の背を押して椅子に腰掛けさせた。
マルはとても楽しげな表情だった。
僕を家に招待したことに対してなのだろうか。何にしても楽しそう。
一方の僕はずっと落ち着かない気分だった。
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