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よその家にお邪魔して落ち着くというのがそもそもできない話なのだけど。
しかし不思議と肌に馴染むような、受け入れてもらっているような寛容さをこの家全体から感じた。
マルの育ちの良さはこの環境も理由の一つなんだろうな。
そう思いを巡らしながらキッチンにいるマルに視線を向けた。
冷蔵庫を開けようとしていたところだった。
「ん?」
一瞬、僕は目を疑った。
冷蔵庫の中に入った大量のビンが見えた。
中身は、朱い。
「あのぅ、マル」
「なぁに?」
振り返らないままマルが返事をする。
そんなわけ無いとは思うけど、というか絶対違う事は分かってるんだけど聞かずにはいられなかった。
ラベルが付いてないから市販のものでもなさそうだし。
「その赤いのは、」
「トマトジュースだよ」
ビンとグラスをお盆に載せて僕の元へ向かうマルは端的に言った。
ニコニコ笑顔でマルは答える。
「私トマト大好きでしょ? 実はトマトジュースが一番好きなんだー。自家栽培してるくらいだし」
「そっか、だよね。でもビックリしたよ冷蔵庫の中に大量に赤いビンが入ってるから」
「あはは、血をストックしてると思った?」
皮肉ではないことは声音で分かったけれどその例えを言わせてしまったことを猛省した。
「いや、トマトジュースか何かだとは思ったけどあまりに異様な光景だったからさ」
「ごめんごめん、驚かせちゃったね。好きすぎて常に沢山ないと落ち着かなくて」
「そっか。そんなに好きだったんだ」
「是非、飲んで欲しいの。すごく美味しいからっ」
よくよく考えたら家にお邪魔してトマトジュースを差し出されたことは一度もないのでこれは突っ込んで良かったような気がするんだけど大量のビンの衝撃が強すぎて忘れてた。
マルはトマトジュースを注いで僕の前にグラスを置いた。
「じゃあ」
触った瞬間、とても冷たいのが伝わってきた。
グラスの中を覗くと真っ赤な液体が覗いてた。みた感じドロドロした感じじゃないのでサラサラ系のトマトジュースのようだ。
マルがすごく推してくれているくらいだ、僕の期待値はけっこう高かった。
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