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「早く……早く、そのチョコレイトを処分してくれ!」
まるで毒を持った珍獣が襲ってくるかのような怯え方をしながら、克子から貰ったトリュフチョコレイトを指差す。
「中村君!」
3ヶ月前から付き人になった新人スタッフの中村に、古参マネージャーの定吉がアゴで指示をした。
「あ、はい!」
中村は床にバラ蒔かれたチョコレイトを拾い上げると、一粒口に放り込んだ。
「あ、甘さ控えめで、うまいっす!」
「ぎゃあぁぁぁーーー!!」
ムシャムシャとビター味のトリュフチョコレイトを租借する中村を横目で見ながら、雅人は断末魔の叫びを上げた。
「バカ、雅人は他人がチョコレイトを食べているのを見ることもNGなんだよ!」
定吉が中村からチョコレイトを取り上げた。
雅人の顔面には、うっすらと発疹が浮かび上がっている。
「キモッ!」
「なーかーむーらーーー!!」
思わず声に出した中村に、定吉が凄んだ。
「サーセン!!」
素直さが取り柄の中村だが、思ったことをすぐに口にしてしまうことが難点だ。
しかし、そんなことは、今はどうでもいい。
「隼さんのファンの皆さ~ん!隼さんに送るチョコレイトは、甘くない物にしてくださいませね」
赤蔓克子は、全国放送でそう言い切った。
バレンタイン当日まで、2週間。
この日の出来事は、雅人にとって、かつてない命の危機に晒される日々を送ることへの序章に過ぎなかった。
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