2週間前【1月31日】

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「まぁ、何ですか、こうしてお近くで拝見すると、アータ、やっぱりお綺麗な顔をしていらっしゃるわねぇ」 「恐縮です」 「まぁ、でも、アータ、この美しいお顔が悩みなんですって?」  克子は、台本通り流暢に会話を進める。 「ええ、まぁ、美しい云々は置いておきまして…」  顔の前で否定するように手を振り、雅人は照れたような笑みを浮かべて続ける。 「これまでは教師や医師、弁護士に刑事といった品行方正な役柄をいただくことが多かったんです」 「まぁ、素敵なアータには、全部お似合い!」 「はは、ありがとうございます。非常に嬉しいことなのですが、私も30歳を超えまして。役の幅を広げたい、という欲求が沸いてくる今日この頃でして……」 「まぁ、役に幅を?」 「ええ。正義感溢れるヒーローばかりでなく、いわゆる汚れ役というか、悪人や、ダークサイドの人間も演じてみたいと思うようになりまして……」 「まぁ! アータのファンは、汚れ役なんて演じたら悲しむんじゃないかしら!」 「役の幅を広げるためには、さらなる演技力が必要とされます。そのためには、これまで以上に芝居を勉強していく所存です。私のファンは、私の見てくれだけでなく、そういった姿勢も応援してくださる方々だと信じています」 「まぁ! アータ、容姿だけでなく中身も清廉された素敵な方なのね。ますますファンが増えるわね、アタクシが保証します!」 「ありがとうございます」  雅人は深々と頭を下げ、謙虚な振る舞いを見せた。
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