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克子が取り出したM製菓のトリュフチョコレイト、バレンタイン・バージョンのCMが流れる。
「隼さん、すみません。克子さんがサプライズでチョコレイトを渡したい、とおっしゃいまして。台本には書いていない演出をいたしました」
スタッフが雅人の隣にしゃがみ、説明をした。
「そ、そうなんですか。いや~、驚いたな」
動揺を悟られないように、雅人は笑みを浮かべ、克子へ向き直る。
「克子さん、嬉しいです。ありがとうございます」
「アタクシ、今日、ますますアータのファンになったわ」
CMが明け、克子が切り出す。
「でも、アータ、甘い物は苦手なんですってね」
そういえば、打ち合わせのアンケートにそう書いたことを雅人は思い出した。
「ええ、はい。実は得意ではないんです」
「このトリュフチョコレイト、甘さ控えめのビター味なんですって。これなら大丈夫かしらと思って、差し上げたの」
「お気遣い、ありがとうございます。嬉しいです」
チョコレイトを手にした雅人の背筋に冷や汗が滴り落ちていることを、克子も番組スタッフも、もちろんテレビの前の視聴者も知らない。
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