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チリンと音を立てる風鈴に手を伸ばす。伸ばしてもここからでは手が届かない。分かっているのに、何度も必死に手を伸ばし、そして諦める。
何度、この季節が巡ってきただろう。暖かい風が頬を撫ぜる。ふわりと香る線香の香り。写真に写る笑顔のその人は、もう二度と会えない人。幼い頃から喧嘩ばかりで、くだらない話で笑って、泣いて。もう、ごめんねも言えない。だからこの季節は、夏の始まりなんて大嫌いだ。眉間にシワを寄せたまま立ち上がり仏間を後にした。リビングに行けば母親がテレビを見ていた。
「何見てるの?」
さして面白くもなさそうなテレビを真剣な顔で見ている母に近づき隣に座る。
「歴史の番組よ。見はじめたら、止まらなくなっちゃって」
テレビに映るのはどうやら幕末を舞台にしたドラマだった。テレビの中の彼らは刀を振り回して、ただ人を切っている。浅葱色の羽織をたなびかせながら、まるでそれが誇りとでも言うかのように彼らは血を浴びている。
「何が面白いんだか。殺人現場ばっかじゃん。」
「まあ、そう言われちゃうとね。でも殺さなきゃ殺されちゃうのよ?」
「物騒な世の中だね・・・」
そんなたわいもない話をしているとふと一人の青年から目が離せなくなる。新選組と呼ばれる集団に必死に抗っている。
「これ、誰?」
「吉田稔麿っていうらしいわよ。私も歴史は詳しくないからあまり分からないけど」
なぜだろう、胸がざわつく。そして突然襲われる吐き気にその場に蹲る。頭が割れそうに痛い。遠のく意識の中で最後に聞こえたのは兄の命日と同じ、六月五日。そして目に映ったのは彼が倒れゆく姿だった。
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