第三章 変な虫

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 夏帆とは、イルミネーションを見に行く約束をしていた。夏帆が今いる、そしておれが学生時代を過ごした街は、十二月になるとけやき並木の大通り約一キロが光のトンネルへと様変わりする。この地方都市のどこにこれほど人がいたのか疑問になるほどの大勢が押し寄せる、冬の風物詩である。  以下、約束をとりつけるまでの一部抜粋である。 『私、ちゃんと見に行ったことないです。帰り道でちらっと見たことはあるけど』 『ホント? じゃあいい機会だね』 『そんなに見たいんですか? 齋藤さん六年もいたんだから見飽きたんじゃないですか?』 『六年もいたけど、今まで夏帆と一緒に行ったことは一度もないから』  これに対する夏帆の返信は、眉間にしわの寄った、嫌悪感剥き出しな表情のスタンプだった。 『その日飲み会なので、その後でもいいですか?』  つくづく夏帆の中でのおれの優先順位の低さを感じる。 『いいよ。夏帆と会えるだけで幸せだから。何時くらいなら大丈夫?』 『八時半くらいには』 『二次会とかあるんじゃないの? 大丈夫?』  大丈夫? と聞いておきながら、大丈夫と言ってもらわないと困る。夏帆は平気で「あ、そうだった。やっぱりやめましょう」と言い放つタイプだ。 『二次会あんまり好きじゃない』  二次会に行かずおれに会ってくれるということは、少なくとも二次会には勝ったということだ!  待ち合わせ場所を連絡して、その後も毎日ダラダラと雑談を続け、二百回切り刻まれることと相成ったのであった。
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