第三章 変な虫

4/12
前へ
/43ページ
次へ
 そして当日。  新幹線の駅に降り立ったおれは、夏帆が飲みに行っている間、適当なカフェで文庫本を読んで時間をつぶしていた。約束の夜八時半までの一時間半をコーヒー一杯で粘る予定だったはずが、気づいたらサンドイッチを追加していた。もう少しでワッフルも頼むところだったが、そこは堪える。  社会人になってからというもの、恋愛モノや青春モノ、ベタ甘系を好んで読むようになった。今読んでいるのも二度読み必至が謳い文句の泣ける系恋愛小説である。なお、二度読みどころかこれで五周目だ。映画化も決まったらしいので観ようと思っている。主演は今を時めく人気若手俳優だから、きっと周りは女子高生やカップルだらけになることだろう。  おれがよく読む恋愛モノの主人公は、作品にもよるがやはり二十歳前後が多い。メインターゲットとしている年齢層もきっと主人公と同年齢くらいなのだろうと思う。共感や感情移入がときめきを与え、時には涙を誘うわけである。しかし、自分が二十歳くらいの歳のころにそういう小説を読んでいたかというと全くそんなことはなく、アラサーという単語が頭をよぎり始めた歳になってこうしてページをめくっている。
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!

86人が本棚に入れています
本棚に追加