第三章 変な虫

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 なにを想うか一言で表現すると「あ、いいなぁ」である。  人と出会う。  だんだんと惹かれあう。  気づいたら好きになっている。  その人のことばかり考えている。新明解国語辞典(第七版)の【恋愛】なんてまさに的確で「特定の異性に対して他の全てを犠牲にしても悔い無いと思い込むような愛情をいだき、常に相手のことを思っては、二人だけでいたい、二人だけの世界を分かち合いたいと願い、それがかなえられたと言っては喜び、ちょっとでも疑念が生じれば不安になるといった状態に身を置くこと」状態になる。  しかし小説なので、やはり大きな出来事が起きる。病気が発覚するとか、実はもう会えない事情があるとか、ありがちだがどちらかが亡くなってしまうとか。  それでも、お互いがお互いを想いあいながら乗り越えていく。克服していく。受け入れていく。  素敵なことではないか。青春っていいなぁ。こんな青春したかったなぁ。  そして考えるのが、二十歳くらいの時の自分がどうだったということだ。過去の恋愛について、男は名前を付けて保存、女は上書き保存だということが有名であるが、名前を付けて保存どころかたまにフォルダを開いては更新して保存くらいが的確ではないだろうか。  あの時あの子はなにを思っていたのだろうか。今のあの子はどうしているだろうか。自分はあの時からどう変わっただろうか。あの子がおれに向ける笑顔は本心からだったのだろうか、それとも辛いことや苦しいことを必死に隠して、おれだけが幸せなだけの哀しい笑顔だったのではないだろうか。だからこそ、もう耐えられないとなった時、別れが訪れたのではないだろうか。  なにが本当かは分からない。本当にただ単純に次の男ができただけかもしれない。でも、おれの言葉、あの子の返事、声、表情、雰囲気。それをまるでパズルのように組み合わせながら、想像をする。青春時代の自分はどうだったのか。そして、これからどうしていくべきなのか。  おれは時計をちらっと見た。約束まであと十分。  本を鞄にしまった。
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