第三章 変な虫

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 そこはちょうど結婚式場の正面だった。「どこ?」「あったあった!」と、ちょっとした騒ぎになっている。 「どこだろ」 「見つけないと齋藤さん不幸に終わりますよ」 「そらマズイ」  目をこらすが電球が多すぎる。何しろ、光のトンネルだけあって一つ一つを見分けるのが難しいくらいの密度で装飾されている。 「あ」  夏帆が声を上げた。 「あれかな」 「どこ?」 「多分あれ」 「どこどこ?」 「あったあった!」 「ど、こ、だー!」 「もう、仕方ないなぁ」  夏帆はおれの頭をむんずと掴んで無理矢理角度を調節した。 「まっすぐ見て。あの二股の枝分かりますか? 根本がコブになってるっぽいやつ。すぐ上にぶっとい枝が伸びてます」 「どこ」 「齋藤さん目ついてますか?」 「視力〇・〇一。コンタクトで一・二。あーあれね」 「そこから上の枝分かれ見て。手前の枝と交差しているとこのすぐ右です」  言われたとおりに見ていくと……。 「分かった、あれか!」  黄金色の光の中に、淡く暖かい光が一つ。気を抜くとすぐに見失ってしまいそうな光だった。  すぐにスマホを取り出す。カメラを向けたが、さすがに無数の電球のうちの一つを綺麗に撮ることはできなそうだった。一応シャッターを切る。  夏帆もスマホを向けていた。首をかしげているので、状況はおれと同じらしい。そんな夏帆の横顔をこっそり写真に収めた。夏帆は「有料ですよ」と両手で顔を覆ってみせた。指の隙間からのぞく瞳が、ページェントを反射して金色に輝く。 「こんな時ちゃんとしたデジカメ欲しいですね」 「だよな。本物のカメラは違うだろうし。来年もまた一緒に来ようよ」 「あなたも本当に物好きですね。だいぶズタボロにしてるのに。こんだけしつこい虫は初めてです」 「でしょ。好きだから仕方ない。」 「あーはいはい。ありがとうございます」 「夏帆だってさ、今日は腕組んでくれたじゃん。びっくりしたよ」 「んー。ま、喜ぶかなあって思って」  夏帆は再びインカメにして、体を寄せてきた。二枚目のツーショットは、背景のどこかにピンクの光。そして相変わらず笑顔の下手な変な虫と、満面の笑みの芝刈り機であった。
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