第三章 変な虫

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「まぁ、写真じゃ分からないですし。人間顔じゃないし。齋藤さんでしたっけ、どういう人なんですか」 「悪い人じゃないんだけどね。初対面でプロポーズしてくるような人」 「ただのアホじゃないの」 「でも、私のこと本当に好きだって言うし。いっくら切っても好きだ好きだって言ってくるんです」  言いながら、これじゃあの男をフォローしているみたいだと思った。なんで私が齋藤さんをフォローしないといけないんだ。 「夏帆ちゃんはどうしたいの?」 「わかんないんです。好きな人……いや好きな男の人なんて今いないし。誰かと付き合ったこともないし。齋藤さんは好きだって言ってくれるけど、私は恋愛経験なさ過ぎて好きっている気持ちがもうよくわかんなくて。男は信用ならないし。好きって何度も言われて、きっと本当に好きでいてくれてるだろうなって思っても、心のどこかで本気なのかな、結局顔だけかなとかも思っちゃう」 「男はね、嫌いっていうのは嘘でも言えるけど、好きっていうのはホントに好きじゃないと言わないものよ」  わたしも男だからわかる、と森本さんはにっこりと続けた。  森本さんは口調こそアレだが、男だ。恋愛対象もどちらかというと女性らしいのだが、「どちらかというと」というのがミソだ。 「最初は顔が良かったからみたいなきっかけかもしれないけど、好きっているのは信じていいんじゃないかしら」 「私もそう思います。でなければ新幹線の距離しょっちゅう会いに来たりしませんよ」  二人にそう言われると、そんな気がしてくる。
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