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『あの時あの子はなにを思っていたのだろうか。今のあの子はどうしているだろうか。自分はあの時からどう変わっただろうか。あの子がおれに向ける笑顔は本心からだったのだろうか、それとも辛いことや苦しいことを必死に隠して、おれだけが幸せなだけの哀しい笑顔だったのではないだろうか』
おれはまたも間違ったのか。辛い思いをさせていたのか。結婚しよ結婚しよ言う齋藤准一が本当は嫌で嫌で仕方ないのに、それを直接的に伝えるとおれが傷つくから、茶番というオブラートに包んでいたのか。くだらない茶番で場を暖めていたのは、それが楽しかったからじゃなくて、おれが傷付けないようするための配慮だったのか。その分は夏帆が一身に苦痛を引き受けて――。
「ごめん。もう言わない」
「はい。そうしてください。いい加減しつこいので」
ここしかないと思った。
だったら。おれももう茶番は終わりにしよう。
フラれることを見越して予防線を張るのはやめよう。
重くてしつこい半分ネタのような想いの伝え方は、軽くてチャラくて傷付けるだったのだと悟った。
結婚という非現実的なワードに隠してきた本当の想い。
拒絶されても、ネタだからとはもう言い訳できない、最後の言葉。
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