第一章 出会い

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 大学時代に所属していた研究室では、毎年十月にテニス大会が開催される。三年生の研究室配属が十月に行われることから、歓迎会も兼ねる形だ。  卒業生にも声がかかるため、この春に大学院を卒業し、社会人一年目として新しい生活を送っていたおれは、久しぶりに母校を訪れたのだった。  研究室に集合して、そこから教授や学生の車に分乗してテニスコートまで向かうことになる。この日は土曜日。人の少ない建物内は平日よりは落ち着いた雰囲気……だと思っていたのだが、細胞薬理学研究室のある三階へ向かう階段の時点でもう、にぎやかな声が反響していた。  随分と様子が変わったな、と心が躍った。在学していたころの細胞薬理学教室は、どちらかというと落ち着いた学生が多かったように思う。少なくとも今日のように、黄色い声がキャッキャしている研究室ではなかった。元気のよい女の子が新しく配属されたのだろうと、わくわくしながら階段を昇っていった。  彼女と最初にまともな会話をしたのは、偶然車割りが一緒になった、家守先生の車中だった。助手席には、今年から地元の病院で働いている同期の藤村さんが座り、後部座席におれと彼女が並んでいた。 「えーっと、ごめん、名前なんだっけ?」  本当は、名前は覚えていた。研究室で会った時に、ごく簡単に自己紹介をしたからだ。要するに会話のとっかかりだ。  配属されたばかりのフレッシュな三年生、うれしいことに二人ともすごくかわいい女の子だった。研究室配属の時期になると、三年生の特にかわいいと噂の子の名前がどこからともなく出回り、迎える側が浮足立つのが恒例なのだが、二人とも、きっと今年は噂になっただろうなと思われるレベルだった。おれは人の名前と顔を覚えるのがあまり得意ではないのだが、かわいい子は別だ。一人は月島知沙、もう一人が、 「斉藤夏帆です。齋藤……准一さん、ですよね。苗字同じですね。お噂はかねがね」
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