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そんなことよりも、夏帆がおれを信じてくれていることが嬉しかった。
『これからもちゃんと追いかけてきてください』
会ってからというもの、ずっとそうしてきた。だって好きだから。お安い御用だ。
「一生追いかける。嫌だって言ってもそばにいる」
「まあ常識の範囲内でお願いしますね」
夏帆を一人にしない。ずっとおれがそばにいる。そのためには、
「おれ、絶対夏帆より長生きするから」
「いきなりなによ。私に早死にしろと?」
「あなたのこれからの人生全て、おれはちゃんと追いかけ続けるから。夏帆を一人で遺していなくなったりしない。寂しい思いをさせたりしない」
おれの生きている限りでは意味がない。夏帆が生きている限り、おれは夏帆のそばで愛し続けてみせよう。
「でも、女性の方が男性より寿命長いし、そもそも齋藤さんのほうが年上だし」
「それでもおれは夏帆より長生きする。死にそうになったら気合で何とかする」
「わたしがおばあちゃんになって、ボケて齋藤さんのこと忘れちゃったら? 誰この変な虫、ってなったら?」
「そしたら毎日『はじめまして、齋藤准一です。好きです。結婚しよ?』って言う。毎日プロポーズする。毎日一目惚れするよ。安心して『お断りします』って言っていいからな」
今度は夏帆の頭が垂れた。目に雫が浮かんでいるように見えたが、夏帆のプライドのためにも気のせいと言うことにしておこう。
改札まで手を繋いで歩いた。しかし付き合う前からそうやって歩いていたからあまり新鮮味はない。改札まで見送りに来てくれたことの方が幸せだった。
手を離す。
繋がりが途切れるその刹那、名残惜しそうに指が触れる。
切符を入れて改札を通過する。
振り返ると、夏帆が手を振っていた。
ホームに上がる階段まで、何度振り返っても夏帆は変わらず手を振ってくれていた。
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