最終章 最愛のあなたが、おれより先に死にますように

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 大学卒業と同時に私たちは結婚した。  男友達たちの愕然とした表情が忘れられない。「斉藤さんって彼氏いたんだ……レズじゃなかったんだ……」おおかたそんなところだろう。私もびっくりだ。なにしろ同期第一号だったのだから。  結婚式に来てくれた友人たちを見て、いかに私が周囲の人々から愛されているのかを実感した。  森本さんは祥子が受け取る寸前だったブーケを、背丈を活かして掠め取っていた。「わたしだって幸せになるの!」と高らかに宣言していた。  ももちゃんは「夏帆さんが男に取られたー!」とわんわん泣き真似をして抱きついてきた。結婚しても私はももちゃんを愛してるからねと背中をぽんぽんしてあげたら、「来年私も結婚する予定なので式来てくださいね」ときた。双方ちゃっかり彼氏がいたという笑い話である。  つっきーはなんと竹内さんと付き合っている。つっきーはずっとプロポーズを待っているのだが、竹内さんが日和っているらしい。「私が結婚指輪ぱかっとしようかしら」と、業を煮やしている。なんだかんだ上手くいっているようだ。  ――それから幾年月。  私は准一さんのベッドの横で文庫本を読んでいた。なぜこの歳になってまでと我ながら思う、若者向けの青春小説だった。  私たちにもこんな時代があったなと懐かしく思う。小説らしく、それなりに事件が起きるものの、綺麗事がまかり通る虚構の世界。そんな綺麗な青春ではなかったが、幸せだった。  准一さんの容体は落ち着いている。今日のところは――。 「夏帆」  か細い声が私を呼ぶ。  あと何回呼んでくれるだろう――。 「そばにいますよ」  文庫本を閉じて、准一さんの手を握った。 「いつもそばにいます」  しわだらけの年季の入った指。 「ごめん」 「なぜ謝るんですか」 「……約束したのに」  遠い記憶。でも昨日のことのように蘇る、色鮮やかな記憶。 「夏帆より長生きするって……約束……したのに」 「まだ諦めないでくださいよ。ファイト! 気合でなんとかするんでしょ?」  涙は見せない。私に涙は似合わない。  准一さんはコクコクと震えるように頷いた。涙の筋が枕を湿らせていた。
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