第一章 出会い

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「噂って。なんの噂聞いてんのよ」  思い当たる節はいくつか。例えば、研究室のコアタイムが九時開始のところ、いつも十一時くらいに登校していたらついに怒られ、二日間くらい九時に来ていたけれど十分、二十分とじりじり遅刻し始め、十時半までになったころにまた怒られ、最終的に九時四五分あたりで落ち着いた話とか。それまで比較的コアタイムにルーズな研究室だったが、おれのせいで厳格化してしまった。  または、修論発表会で受けた質問に対して、明確な答えを持っていなかったのと緊張とが相まって、質問の答えどころか日本語になっているかも怪しい意味不明な回答を長時間し続け、あとで家守先生に「とりあえずよく喋ってたね」と複雑なコメントをいただいたこととか。なんでも、来年からは質疑応答の模擬練習をしようということになったらしい。 「去年のテニス大会で、前日に竹内さん飲ませまくって戦闘不能にして優勝した話とかです」 「おぉっと人聞きの悪い。飲ませまくったんじゃないわ、竹内が勝手に飲みまくったの」 「懐かしいねー。時間になっても研究室来ないし、LINEしても返事来ないから、竹内君のアパートに迎えに行ったよね」 と、藤村さんが言った。 「そうそう。ピンポン十六連打くらいして出なくて、死んだ!? って焦ったけど、ドアがんがんしてたら、ゾンビみたいな竹内が出てきてさ、真っ青な顔で『今無理っす、遅れて行きます』とか言ってんの」  夏帆は笑った。よし! と、手ごたえを掴んだような気がした。 「かわいそうだったねぇ竹内君」  家守先生も笑いながら言った。 「齋藤君と試合するの誰よりも楽しみにしてたのにね」 「あいつがやっと来た時、試合全部終わってましたもんね」
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