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「齋藤君は、今は東京にいるんだっけ? 仕事は順調か? もう慣れた?」
赤ら顔で肩をしばいてくるのは家守先生である。まだなにも答えていないのに、そうかそうかはっはっはーと笑いながら先生はビールを注いできた。
「遅刻してない? 部屋は片付けてる?」
あんたはおれのかーちゃんか。
「不思議なもので、一回ちゃんと朝起きる習慣がついたら結構大丈夫みたいです」
これは本当に不思議で、入社前はどうなることかと我ながらひやひやしていたのだが、人間の適応力の高さに驚愕した。
「齋藤君が遅れずに会社行ってるところ、想像つかないよ」
家守先生は空っぽになったビール瓶を店員さんに渡しながら、感慨深そうに言った。
打ち上げの会場は、安いチェーン店の居酒屋だった。
できるだけ夏帆の近くに座りたかったのだが、席順に不幸があり、おれは家守先生や先輩諸氏をはじめとする男性陣の相手をしなければならなくなったのであった。
「家守先生、スピーチ考えてくれました?」
おれの二つ上の先輩である根岸さんが、店員さんから新しいビール瓶を受け取り、家守先生に向かって振って見せた。家守先生はグラスに残ったビールをぐいっと飲み干した。
おっさんどもの会話を右から左に聞き流しながらも、ちらちらと夏帆の方を見ていた。夏帆は現役生同士で楽しそうに笑っていた。
家守先生はグラスに残ったビールをぐいっと飲み干すと、
「まだ!」
と、グラスでテーブルを叩いた。根岸さんはすかさずビールを注ぐ。
「来週なんですけど、大丈夫ですか?」
「それがねー、いっぱい良いところを話したいと思ってるんだけど、いざ考えてみると、面白い失敗談ばっかり浮かんできちゃってね。ほんとにこいつでいいの? って奥さんを心配させそうな話になってしまう」
「え、もしかして根岸さん、結婚するんですか?」
おれも根岸さんからビールを注いでもらった。グラスを口に付け、飲む瞬間に、またちらりと視線を夏帆に向けた。夏帆はスマホの画面を竹内に見せていた。テニス大会の写真だろうか。二人で小さい画面をのぞき込んでいるので、自然と身を寄せ合う形になっている。おれはビールをのどに流し込んだ。
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