1人が本棚に入れています
本棚に追加
「大丈夫?聴こえたら、そのボタンを押してね?」
困ったような笑顔で私の顔を覗き込む、女性教師。
思わず「え」と声を漏らす私。
これで2度目だった。
音が鳴ったら、ボタンを押す。
それくらい分かってる。
さっきまでやっていたじゃないか。
なぜ今更そんなことを確認するのか、理解できなかった。
「もう一度流すからね」
そう声を掛けられ、私は慌ててヘッドホンがしっかりと耳に当たっていることを確認した。
「高い音、左のヘッドホンから流すからね」
念を押すように先生が続ける。
私は両手で包むようにしてボタンを持った。
だが、いくら待っても、それを押すべき時は来ない。
ふと顔を上げると、
ボタンを握り締めたまま1mmも動かない私の手元を、先生は不思議そうに見つめていた。
隣に座っていたクラスメイトでさえ、じっと私を見ていた。
ただ、私を心配して見つめていただけかもしれない。
だけど、それが私には、
まるで異質なものを見ているかのような反応に思えてならなかった。
本当は、彼女等より、驚いているのは私のはずなのに。
最初のコメントを投稿しよう!