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その音を聴いたビターは狼狽え気味に這い進んで手を伸ばし、倒れた際に吹き飛んでいたアタッシュケースを掴む。
「どこへ行くつもり? パトカーで良かったら乗せてあげるけど?」
そのアタッシュケースに片足を乗せ、鈴が言った。
「忌々しい小娘がぁ!」
うつ伏せからゴロリと転がって腹を見せるビターは、ナイフが刺さっていた腕で懐からワルサーPP7を取り出した。当然、負傷した腕ではまともに構えられず、ガタガタと震えてる。
敢えて何もせずその行動を眺めていた鈴は、得意げな笑みを浮かべて、あの台詞を言い放つ。
「――考えてるわね?」
しかし、鈴にもトラブル発生。右腕は脱力しているので、代わりに利き腕ではない左で愛用のベレッタを構えようとしたらしいのだが、ジャンベリク戦のダメージは左腕にも蓄積していたようで、プルプル震えちゃってる。
鈴の左隣に立ってそれに気づいた俺は、敵の手前、黙って鈴の左手に自分の右手を添えて、持ち上げてやる。
「わ、わたしのベレッタに弾が残っているかどうか――」
何故か台詞をつっかえて、また顔を赤らめる鈴。よく見ると耳まで真っ赤だ。ますます病院に連れていかないと。このくそ長い一日で風邪を引いた可能性があるからな。
「――当ててやろうじゃないか! お前の銃はジャンベリクとの激戦で空だ!」
ビターが見せる、この往生際の悪さ。やれやれだ。
「それじゃ、勝負してみる?」
鈴は首を傾げ、ちらりと俺に視線を向ける。
「構わないぜ?」
と、俺はウインクを返す。
父さん、母さん。帰れる目処が立つまで、俺、こっちで頑張るよ! 見ていてくれ!
鈴は本当にカッコいい、俺のヒーローだ。
俺も少しは、鈴に恥じない男になれただろうか?
まだわからないことだらけで、きっとまた不安になったり、落ち込んだりすることもあるだろうけど、鈴やみんなとなら、必ず乗り越えられる。
これからもよろしく頼むぜ!
俺はそんな決意と想いを胸に秘め、眉宇を引き締めて、鈴の決め台詞を、二人で一緒に言い放った。
「撃ちなさい。望むところよ!」
「撃ってみろ。望むところだ!」
FIN!!
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