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「止めなさい! あんた、それが何かわかってるの!?」
半分笑いかけていた鈴が真顔に戻り、獣人を引き留めようとする。
「ビターの旦那がくれた、巨大化の薬よ。てめぇをぶっ殺すための、必殺アイテムだ?」
「悪いことは言わないわ。そんなもの捨てて掛かって来なさい。今なら軽くぶちのめすだけにしてあげるから!」
鈴の説得にジャンベリクは聞く耳を持たず、その針を自分の左肩に突き刺した。
「――ぬっ!? ぐ、ぐおあああああああああああッ!!」
ぞっとするような、巨大な猛獣の如き唸り声を轟かせ、囚人服を引き千切り、ジャンベリクが巨大化を始める。
爆発した車の炎に照らし出された、奴の大きな影が更に伸びあがり、正面で立ち尽くす鈴を呑み込んだ。
「グリィィィィィィィィィッ!!」
たった一〇秒で、背丈が倍の四メートルに達したジャンベリクは、両腕を腰溜めに構え、リンボーダンスみたいな姿勢でふんぞり返り、雄叫びを上げた。
ドシン!!
そしてジャンベリクは、力士のようにたたらを踏んでどっしりと構える。
「ハルクだったら許せたけど、こいつはミステイクだわ」
鈴は巨人と化したジャンベリクを軽蔑するような目で睨み、首を左右に振る。
いくら鈴でも、あの体格差は規格外過ぎる。
それだけじゃない。奴の今の格好は、映画倫理規程に思いっきり引っ掛かる状態だ。
なぜなら、ジャンベリクの〝雄のシンボル〟が丸見えだから!
俺の左目にはモザイクが掛かった状態で観えてる。この【スクリーン・ヴィジョン】は、子供たちにも楽しんで欲しいという製作者側の意向が効いているのか知らないが、〝そういった下しものシーン〟には、自動的にモザイクが掛かる仕様らしい。
「――スゲェ! 身体に力が漲る?」
トーンがいくつも下がった低い声で、ジャンベリクは自分の肉体を眺め、次に鈴を見下ろす。
自分の下半身を気にしろよ! 露出狂かよ!?
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