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そして、そこで徐に両腕を広げた。
たぶんまた何か魔法を使う気だ。この流れから推察するに、逃走用の魔法だろう。
逃がしてたまるか!
一つ辺りの長さが一〇メートルはあるコンテナ三つをドカドカと駆け抜け、俺はマジカもどきに追いついた。
「そのまま動くな! この銃には特殊な弾が入ってる! 自慢の魔障壁も貫くぞ!」
「――しつこいお巡りさんね」
マジカもどきは振り向きもせず、冷たい口調で言った。
「しつこいのは、お前が逃げるからだ!」
「一人じゃわたしをどうすることもできないとわかっていて、それでも追ってくるなんて、ヒーローにでもなったつもり?」
「その〝ヒーロー〟に頼まれたんだ。どこまでだって追いかけるさ!」
「まるで子供ね。今回は遊んであげられない代わりに、もう一つ、魔法を見せてあげる」
マジカもどきはそう言いながら広げた両腕を閉じ、今度は両方の手の指を鳴らした。
その瞬間、彼女の正面の空間が蜃気楼のように揺らぎ、白い半透明のドアが出現した。
その半透明のドアは徐々に色が濃くなっていき、三秒後には完全に実体化。ペンキ塗り立ての新品のような艶を放ち始めた。
「名付けて〝何処へでもドア〟よ」
「どこへでもって、その台詞、著作権的に大丈夫なのか?」
ちくしょう! 調子が狂う! 相手の呑気なペースに呑まれたらダメだ。鈴がやったみたいに、こっちはこっちのペースでお縄に掛けるんだ。
「物足りなかったかしら?」
「子供と思って茶化すな! 器物破損、ならびに傷害罪で、お前を逮捕する! それと、俺の事とか〝鈴の父親さん〟の事とか、お前が知ってる情報を洗いざらい教えろ!」
試しに、敢えて〝鈴の父親〟という単語を交えて情報を求める俺。
「なるほど? 異世界から来た人なら、誰だって今自分が置かれた状況が気になるわよね。それじゃ、取引しない? わたしが知っている情報をあなたに教える代わりに、あなたもわたしに情報を渡すの。あなたがこの世界に召喚された理由と、召喚した人物の詳細をね?」
マジカもどきはそう言って髪を掻き上げ、艶めかしく半分だけ振り返り、横目でこっちを見遣った。
てっきりマジカもどきか、彼女の〝上〟の何者かが俺を召喚したんじゃないかと思ったけど、違うのか?
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