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「くッ! わたしったら、変ね……」
うつ伏せの状態から顔を上げ、血反吐を吐く鈴。
「最近、栄治のことばっかり思い浮かんで――まるで仕事に、なってないわ……」
拳を地面につき、歯を食いしばって上体を持ち上げようとする鈴の背に、ジャンベリクは容赦なくその巨大な足を乗せ、ぐりぐりと力を込める。毛に覆われた足先の三本の鋭い爪が、彼女の背に僅かに食い込んだ。
「ぐッ!?」
今まで聞いたことの無い、苦悶の声を上げる鈴。
「なんだ幕明、もっと泣けよ? いたぶり甲斐がないじゃねぇか。料理はこれからなんだぜ?」
ジャンベリクはそう言い、犬歯の間から長い舌をだし、ベロリと舐めずる。
「誰が、泣くもんですか! 栄治が、頑張ってるのに、わたしがそんな、情けないところ、見せるわけには、いかない!」
――鈴っ!!
〝左目〟で鈴を見たそのとき、俺の胸が急激に熱くなった。
悔しがって、自分の事にだけ集中して、寝ていられる状況じゃない!
〝何をすればいいか〟だって?
そんなの、決まってるだろ!
相棒がまだ戦っている!
事件はまだ終わってない!
事件は人を待たない!
「――待ってろ! 鈴!!」
俺はすぐさま立ち上がり、広場へ向かってコンテナの上を走る。
「その強気な態度がいつまで持つか見るのも面白ぇ。そぉら!」
ジャンベリクが鈴を踏む足に、更に体重を掛ける。
「うあああああああああああッ!!」
両目をぎゅっと瞑り、ひたすらに歯を食いしばる鈴。
「――やめろおおおおおおおッ?」
とうとう怒りを抑えきれなくなったリリィが、バン爺を引っ張るのを中断し、ジャンベリクへと特攻を掛けた。
「喰らえ! 攻撃魔法――破断重力層!!」
初めて聞くまともな呪文に期待した次の瞬間。
「なんだ? ハエか?」
巨人ジャンベリクが振り向きざまに放った裏拳がリリィの全身を捉え、
「ぎゃあッ!?」
咄嗟に攻撃魔法をキャンセルして【魔障壁】で身を守ったリリィだったが、それでも衝撃を完全には相殺できず、バン爺の方へと吹き飛ばされてしまった。
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