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「――鈴! 無事か!?」
俺はすぐに鈴の元へと駆け寄った。
「ナイスショットよ。ちゃんと腕を上げたじゃない、栄治」
鈴は口もとの血を拭い、半ば疲れたような笑顔を見せた。彼女の身体に目を遣ると、ジャンベリクの攻撃を直に受けた右腕が不自然に脱力している。
「お前、その腕……」
「平気よ。ちょっと肩をやられて、うまく力が入らないだけ」
と、俺の視線に勘付いた鈴は何でもなさそうにしているが、応援が来たら病院直行だな。
その応援だが、どうやらもう夏葉原埠頭の正門前に到着したらしく、先ほどまで響いていたサイレンの音が聴こえなくなっていた。
「直に応援が来るから、病院に行こう。俺も付き添うからさ」
「わたしは先にシャワーを浴びたいわ。つまらないものを蹴っちゃったし」
「それは言えてる」
〝一〇秒間に金的をキメた回数〟でギネス申請してもいいレベルの攻撃だった。
なにこれチン百景に選ばれてもおかしくないくらいの珍攻撃だった。
〝チン〟だけに。冬の夜は冷えるなぁ。
「鈴。若いの。よくやってくれたな。お嬢ちゃんも、メルも。礼をいわせてくれ」
と、バン爺。ほんとに、命が助かって何よりだよ。
「――メル、魔法をぶつけちゃってごめんね?」
まだダメージが残っているらしいリリィが、バン爺の腕の中からメルに向かって弱々しく手を合わせてる。
「いいってことよ。それより、バン爺もリリィも、鈴と一緒に一先ず病院だ!」
と言って、メルがバン爺に肩を貸しているのを見た俺は、
「――これ、ありがとうな。魔術師には使えなかったよ。逃げられちまったんだ」
そう謝りつつ、俺は鈴にワインレッドのベレッタを返した。
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