19人が本棚に入れています
本棚に追加
「なに暗い顔してるの? 大丈夫。情報源はその辺にたくさん倒れてるでしょう? リーダーだってそこに居るし。連中から後で魔術師の情報を聞き出して、所在を絞って、また出動。いつものことよ」
と、鈴は少し離れた場所に倒れているビターを指差した。
鈴の言う通り、落ち込むのはミステイクだ。
セイヴ。待ってろよ? もっと経験を積んで、いずれお前を捕まえてやるからな!
「おい! そいつまだ動いてやがるぞ!」
「――っ!?」
メルの声で、俺と鈴はビターを二度見。
ビターが意識を取り戻し、地を這っていた。
「――畜生! 今日はなんて日だ! 邪魔はされるわ、裏切られるわ、怪我をするわ、何一つ爽やかではないじゃないか!」
悪態を吐きながら、ビターは自分の腕に刺さったナイフを一本引き抜いた。
グレーの高級スーツは今や煤だらけだ。
「セイヴに盗ませたアンダーシャツタイプの防弾ベストを着ていなければ、ナイフが食い込んで呆気なく死んでいたところだ!」
もう一本、ナイフを引き抜くビター。その度に赤黒い血がスーツにじわじわと広がっていく。
「なんでも思い通りには進まないのが映画ってもんだぜ?」
俺がそう投げかけると、
「私は成功者だ! 映画などと一緒にするな! 【999《スリーナイン》】の事件ではジャンベリクを囮にして、そこに警察の目が釘付けになっている間に、私の別働隊が裏手の運輸業者からトラックを盗み出し、セイヴが業者の記憶を書き換えて盗難を隠蔽するという手筈で成功した。国境付近を徘徊していたチンピラどもには銃を、街のヤクザにはヤクを、それぞれ売りつけてマネーを蓄え、これも成功。そして今夜も、魔晶石をエサにした取引を片付けて、憎いクソ共を処刑し、海から潜伏先まで移動すれば成功なのだ! ケースを取らせろ! それから全員おとなしく私に処刑されろ!」
ビターは無茶苦茶なことを言いながら、現金の入ったアタッシュケースへと這い進む。
「――全員俺に続け! またマクレーンの阿呆がスタンドプレイをやらかして埠頭が沈む前に一人残らず逮捕だあああああああああああ!!」
正門の方から署長と思しき叫び声が聴こえ、大勢の足音が響き始めた。スピーカー要らずだな。あの声量。
最初のコメントを投稿しよう!