ー 竜神の聖剣 ー

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「ダメだッ、止まらない! モリィィィッ、全速後退だッ、出力を最大に上げろぉぉぉ!」  再び、船の先が大きく持ち上がった。ダンデルクは窓の縁に捕まりながら、持ち前のバランス感覚でどうにか体制を保ってみせた。青い顔で口を押えているグラメルを抱き寄せ、揺れが収まるのを待つ。船は、すぐに落ち着きを取り戻した。速度が極端に緩み、ゆっくりと海原を流れている。床に転がった従者達が頭や肩をさすりながら、ヨロヨロと起き上がった時、外界の様子は激変していた。 「…こ、ここは…」  フロントガラスに広がる光景に、ダンデルクは喉を震わせた。  常闇が支配する邪神の世界―――  数千年もの間語り継がれてきた東の大陸は、一切の光を許さない闇に包まれ、魔物と悪魔どもが彷徨い歩く淀んだ世界。穢れた邪教に支配された魔界なのだと、ダンデルクは思っていた。いや皆そうだろう。けれど…… 「…なん、だ…?」  フロントガラスに歩み寄りながら、ダンデルクは思わず息を飲んだ。濃厚な海霧を抜けた先、漆黒の闇が覆っているはずの空は、仄かに明るかった。薄黒い上空には、七色に輝く光のカーテンが優雅に波打ち、そこから放たれる淡い赤紫色の光が闇を薄めている。それは西大陸(ウエストテラス)の日没直後、あるいは夜明け前の空に似ていた。
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