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日光を長身の体に取り込むようにして、メルフィンティ王国・貿易省長官、グラメル・ハーミッシュ・シトラウス侯爵は思いっきり背伸びした。晴天は、この国にとってまさに神からの贈り物であり、神の加護そのものである。
陽射しに輝くストレートの髪。耳の下辺りで切り揃え、7対3に分けた銀髪の片方だけを耳にかけると、グラメルは茶店やパン屋、果物屋などが軒を連ねる市場一帯をぐるりと見渡した。立ち入り制限区域の集積場と市場街を隔てる鉄柵の向こう、パステルカラーの美しい店が延々と並ぶ裏通りでは、行商人や買い物客、学生や警備兵が互いに笑顔で言葉を交わしながら行き交っている。
自由で豊かで幸せな、花の都の朝の顔だ。
「さてと。そんじゃいっちょ、巡視に参るとしましょうか」
左目に掛けた片眼鏡のズレを直すと、グラメルは検閲済みの物資が並ぶ配当区域に足を向けた。裏通りに沿うように続く鉄柵の果て、遥か奥の配当区域は大陸を横断する大街道と繋がっていて、西大陸の国々からやって来た輸送馬車がズラリと列をなしている。
西大陸最果ての地であるメルフィンティ王国は、唯一あの"東大陸"と交易している国であり、西の大陸全土を守る強大な力を持った防衛国でもあった。
魔界、暗黒の地、死者の国―――言葉様々に呼ばれる"東大陸"との交易がいつ始まったのか、それは誰にもわからない。
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