ー 神の宮殿 ー

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 ダンデルクはこれが見納めであるかのように1人1人の顔を眺めた。この中の誰1人として永遠に忘れない。揺るぎない決意を胸に大きく頷き返し、ダンデルクはもう一度声を張った。 「では出陣だ! 必要な武器を船に運ぶぞ! グラメル、資料(データ)の送信は済んだか?」 「もう少しで終わります」 「よし。ではその間に皆に武器の説明と使い方を教えてやってくれ」 「かしこましました」 「シェラルドとセージュは自分の陣に必要なものをそろえよ。さあ、各自取り掛かれ!」  従者達が勇んで奥の書斎に入ってゆく。その後を追いかけた銀髪の背中を、ダンデルクは咄嗟に呼び止めた。 「グラメル」 「おっ…ととっ、あっ、はい?」  行きかけて、急に歩みを止めたグラメルが、つま先で器用に回転しながら振り返った。 「なんでしょうか?」 「……」  穏やかな笑みを浮かべる賢者を、ダンデルクは束の間、静かに見つめた。この笑顔にどれだけ救われているだろう。慈しみ深く、しかし芯の通った力強さを持つ微笑み。魔界へ道連れにするその笑顔を見ながら、ダンデルクはふと胸を突いた想いを口にした。  「グラメル、お前だけは必ず生きて帰れよ」  一瞬、弾かれたように片眼鏡の奥で水色の瞳が見開いた。グラメルは微かに唇を動かして何かを言いかけたが、言葉を押し流すように息を吐くと、冗談めかして唇を尖らせた。 「んもぉ、私だけ、な~んて寂しい事おっしゃらないで下さいよ。私は全員で帰ってくるつもりなんですから。もちろん、フローディア様も一緒にです」 「……ああ、そうだな…」  つい漏れてしまった弱音に気づかないフリをしてくれた賢者を、ダンデルクはありがたい気持ちで見返した。同時に、固い決意を込めて力強く頷いた。 「その通りだ、グラメル。皆で…全員で花の都に帰って参ろう」
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