96人が本棚に入れています
本棚に追加
世界を分かつ巨大な連山。標高は1万メートルと言われているが、正確にはわからない。幸いな事に、北からぐるりと壁を作るようにして、このグレート・グレース・ムー大連峰は王国まで続いている。
それも西の楽園が魔界から守られてきた理由の1つだろう。大連峰の岩盤壁に沿って北に向かっている戦艦は、あと少しで海霧に突入するところだ。そこを抜ければ、グリーモア帝国領内の大きな湖に出る……はず。
「いやぁ、私すっかり忘れてたんですけどぉ」
操舵室の窓辺にもたれ掛かる銀髪の賢者は、ロイヤルブルーの戦闘服を整えながら茶飲み話をするようなのどかさで、とんでもない事実を今頃口にした。
「確か、フレイア湖ってすんげぇ大きな怪魚がいるんですよねぇ」
「えっ!?」
「はっ!?」
「なにっ!?」
操舵室のフロントガラスの奥では、猛烈な速さで高山の岩盤肌が流れていく。ほとんど海流のないエキドナ海峡の海原は穏やかで、特殊加工を施された中型戦艦は赤い波飛沫を上げて順調に目的地へ進んでいた。
士気を高め、戦の準備をし、作戦をもう一度確認しようとしていた矢先の発言だっただけに、賢者の何気ない爆弾発言は必要以上に衝撃力があった。一瞬にして、操舵室内の空気が凍結する。
最初のコメントを投稿しよう!