ー 竜神の聖剣 ー

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「グラメル、それは確かなのか?」  記憶違いである事を期待しながら問うたダンデルクに、賢者は自信たっぷりの口調で答えた。 「はい。私が『ほらゆけ! 航海王子!』を執筆していた時、海の怪物のモデルになったのがフレイア湖の怪魚なんです。あの時はスランプでしてねぇ。何かこう、子供たちが「うわっ、怖い!」って思うような海の怪物を出したいなぁと悩んでまして。その時ふと古文書にあったフレイア湖の怪魚を思い出したんですよ」  舵を握る若い航海士の顔から、一気に血の気が引いていく。その周りで凝然と固まった仲間をよそに、銀髪の童話作家はのんびりと語った。 「確か怪魚の記述は、古文書の1054ページ、3節の21行目辺りだったと思います。そうそう、大きな角があるサメって書いてあったような…と言っても血海(けっかい)の生物ですので、我らの想像するサメとは違うんでしょうけど」 「まぁ、そう案ずる事もなかろう。この船は特殊超合金の戦艦だ。いくらサメとて歯が立たん」 「ですね。ただちょっと、面白いエピソードがあったんですよ。怪魚が現れる前には――」 「――秘書官様、お話し中恐縮ですが、ちょっとよろしいですか?」  遠慮がちに会話に割り込んできたのは、武器の分別をしていた新人神騎士のミロだ。前髪を真っすぐに切り揃えた顔には少し幼さが残っているが、帝国を目前に控えている中でも落ち着き払った堂々たる姿勢は、さすが神の騎士に相応しい。
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