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「わっ、弓の前に光の輪が現れた!」
「うむ、まことバーチェスト神の御業は素晴らしい」
「ほほぅ、的を正確に狙う為の望遠眼鏡ですね」
内心、これが光学照準器かと納得しながら、ダンデルクは試しに天井の一点に狙いを定めてみた。なんせこれらは1500年もの間眠っていた神の武器。知識は持っているが、当然ダンデルクも手にするのは初めてだ。
吸盤の先を狙ったポイントに合わせた直後、いきなり視界が広がった。天井が目の前に落ちてきたみたいに、狙ったポイントが近づいて見えるのだ。
「おぉっ、これは凄い!」
思わず感動の声が漏れる。この光の輪は拡大鏡の役目を果たしているらしい。なるほどと唸って、ダンデルクは左手を下ろした。矢を射ってしまわないようそっと右手を離した途端、水色の光の輪が消滅する。再び従者達から驚きの声が溢れる中、ダンデルクは腰のベルトに施された丸い銀の装飾を確認しながら言った。
「この矢からは強度紐が伸びる仕組みだ。それは握り手の上に付いてる銀の丸い金具と繋がっている。矢が狙点を捉えたらこの金具を外し、ベルトの装飾に合わせろ。右に回すと上昇、左に回すと降下する。俺と大時計塔に参る者は各自これを持て」
新人が仕分けした両陣の箱から、従者達が必要な武器を取っていく傍ら、控えめな声が訴えかけてきた。船を操縦している航海士が判断を仰いできたのだ。
「国王陛下、間もなく目的地に到着します。あと2分で海霧に突入しますが、速度を落とした方が良いですか? それとも海霧を抜けた後で予備駆動源に切り替えますか?」
20代前半ぐらいの若い航海士の顔は、完全に蒼白してた。短い黒髪の青年は貿易港を守る警備兵の生残りの1人だ。魔物に奇襲された時の記憶が甦ったのかもしれない。竜神が守る空の切れ目、西と東の境界線である黒ずんだ紫色の空をチラリと見た青年の声は、微かに上ずっている。
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