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「よかろう。お前がそう判断したのならよい、任せよう…皆、準備は済んだか?」
声に反応した従者達が、剣を収め、弓矢を背負い、それぞれ手早く武器をベルトに装着しながら直立する。ダンデルクは迫る勝負の時に備えてもう一度、作戦のおおまかな流れを確認した。
「まずフレイア湖に着いた後、航海士のチェスと機関士のモリ―は船で待機。俺達は森を抜けて帝都に向かう。先に1陣のセージュ他10名が都内を奇襲。とにかく派手にやって逃げ回れ。その隙に2陣の俺とグラメル、シェラルド、ミロ、ソーヤ、トロイとルーガはメフィスタの本部・大時計塔に向かう。王妃を奪還したら青い閃光玉を空に打ち上げるゆえ、その合図で全員直ちに船に戻れ」
ダンデルクが話し終えたところで、フロントガラスに広がっていた風景が一変した。エキドナ海峡の赤い海上、境界線である黒ずんだ紫色の空の下を航行していた船が、左に大きく傾いた直後、視界が濃厚な霧で覆われたのだ。
薄暗くなった操舵室の照明を落として駆動源を切った航海士が、舵の前にあるガラス板の障害物反応器を見ながら言った。
「これより船は中間動力で進み6分程で海霧を抜けます。その数キロ先が目的地のフレイア湖です。本来夜間は照明を点灯するのですが、どこに魔物がいるかも分かりませんので、足元の間接照明のみ点灯します。もうすぐ海霧を抜けますので、皆さま下船のご準備を」
「いよいよですね…」
呟いたグラメルが、片眼鏡のズレを直しながら窓を見る。操舵室の窓の奥は、暗闇が溶け込んだ灰色の霧で満たされていた。この濃霧の奥は、永遠の闇が支配する魔界。その穢れた空の下にフローディアはいる。フロントガラス越しに濃霧の奥を睨みながら、ダンデルクは拳を握りしめた。
奴らの襲撃を受けてから半日。
フローディアはどんな想いで助けを待っているだろう。
きっと怯えているに違いない。
絶望に泣き暮れているかもしれない。
あの愛らしい笑顔が恐怖で強張り、美しい瞳から涙が溢れるのを想像しただけで、胸が焼けるように熱くなった。腹の底から沸き上がる憎悪と怒りを奥歯で噛み殺して、乱れつつある呼吸を整える。この殺意は、間もなく始まるメフィスタとの戦いに残しておこう。
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