ー 竜神の聖剣 ー

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 ダンデルクは静かに瞳を閉じた。自分が命と引き換えにしてでも奪い返したい笑顔―――フローディアの美しい笑顔を思い出し、そっと胸の奥にしまい込む。笑顔の余韻を噛みしめるようにして、愛しい妻との幸せな記憶を味わっていた、その時だった。突然、切迫した声が舵の前から飛んだ。 「――ん!? これはッ…皆様おつかまり下さい!」  叫び声に弾かれて、ダンデルクが瞼を開けた瞬間。 「どうしたチェッ…ぬおッ!?」  背中を押されたような衝動が体を駆け抜けた。前に強く引っ張られ、咄嗟に壁に手をついてダンデルクはどうにか転倒を免れたが、数名はそのまま操舵室のフロントガラスの方に転がってゆく。 「あわわわわぁぁぁ…!?」 「ななななんだぁぁああ…!」 「ぅおおおおおおっ…!」  太い悲鳴が響く中、再び航海士の声が鋭く抜けた。 「前方に障害物を感知ッ、全速後退! 緊急停止します!!」 「ひぃぁあああぁぁあッ…!」 「くおっ…とととととッ!」  戦艦が唸ったのと、それまで窓の外を流れていた灰色の霧が消えたのは、ほとんど同時だった。逆噴射をかけて前進を引き留められた船体は、手綱を引かれた馬のごとく舳先(へさき)を持ち上げたまま進み続ける。 「私こういうのダメなんですぅぅぅっ、酔うぅぅぅぅ!」 「グラメル掴まれっ…おわっ!? なんだッ、船が傾くぞ!?」  大きく波打った船体が斜めに傾いた。反動で今度は右へ傾く。左右に大きく揺さぶられて、従者達も操舵室の床を右へ左へゴロゴロ転がる。揺れる悲鳴に、機関室へ向けて怒鳴る航海士の切迫した声が被さった。
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