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誰かがそう呟いた、その時だった。異常な気配が肌を刺した。瞬時に察知したダンデルクが、甲板の従者達へ声高に叫ぶ。
「全員っ、湖から離れろ! 下から何か来るぞ!!」
直後、船体が大きく持ち上がった。光の妖精が高く舞い上がったのと同時に、巨大な赤黒い影が飛沫を上げて湖面から現れたのだ。
「うわぁああああ!」
「出ぇぇたぁぁッ!」
「かかかッ、怪魚だぁああああッ!!」
誰かの絶叫に、巨大な影が俊敏に反応した。ざっと10メートルはあろうか、血の湖から姿を見せた赤黒い巨影には、確かにサメみたいに尖った鼻があった。両方に付いている丸いものは眼球だと思われるが、退化したのか白く濁っている。血海の色に同化した皮膚は爛れたように赤黒く、白い水膨れがポツポツと不気味な水玉模様を描いている。
鼻の先端には、釣り竿に似た形の細く透き通った触覚が一本伸びていた。よく見れば、触覚の先に付いたイソギンチャクみたいな器官が、発光しながらうねっている。妖精に見えたのは、どうやら怪魚の疑似餌だったらしい。今尚白く光りながら舞い踊る妖精の下では、直径2メートルはある口が餌を食らおうと大きく開いていた。
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