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「ああっ、何て事でしょう! あれはサメじゃなくてチョウチンアンコウ!」
「種類など何でもよいッ、危ないから下がれグラメル! 皆ッ、血海の海水に触れぬよう気を付けろッ」
ダンデルクの言葉に、猛々しい声が重なった。先陣を切ったのは新人神騎士のミロだ。真っすぐに切り揃えた前髪の下で、細い眉毛を揺り上げながら、黒光りする胴に炎の金細工が施された弓を掲げて勇ましく怪魚に挑む。
「この化け物アンコウッ、偉大なるバーチェスト神の力を思い知れ!」
一瞬遅れで、神騎士長が腕を伸ばした。
「ミロッ、血海の海水が掛かるぞッ、こっちに来い!」
怪魚の大口からダラダラ垂れる赤い海水から部下を守るように、シェラルドが襟首を掴んで引っ張った時には、早くもミロは矢を射っていた。放たれた銀の矢は高速回転しながら虚空を切り裂き、青とピンクの鮮やかな光を炎のように身に宿して標的を突き抜けた。小枝程の太さしかない銀の矢が貫通した怪魚のアゴから鼻頭には、人間が1人通れるぐらいの穴が空いていた。大口を開けた怪魚が咆哮しながら体をのけ反らせる。
ゴォォオオオオオオァアアアッ――!
「なんて破壊力ッ…これが神の武器!?」
自分の放った矢の威力に自ら驚いて、ミロが弓を見ながら目を瞬いている。だが悠長に感動している暇はなかった。体をのけ反らせた怪魚の白い眼球がグルンとひっくり返ったのだ。
そこに現れたのは別の眼球。猫科を獣を思わせる縦細の黄色い瞳孔を光らせた黒い目玉が2つ、苛立たしげに甲板を見下ろしていた。穴から青緑色の血を垂れ流して、無数の牙を剥きながら今にも狙撃手を喰らおうと身を乗り出している。
それを見上げたミロが、悔しそうに舌打った。
「クソッ、この程度じゃ死なないのか!」
「ミロッ、矢を無駄にするなッ。奴は某が相手をするッ」
新人を庇うように背中に隠して前に出たのは神騎士長だ。白銀の剣を勇ましく構えて上空の怪魚を睨み付ける。だが、シェラルドが剣を振り上げるより先に、ダンデルクは勢いよく甲板を蹴っていた。そのまま脚力の限りを尽くして怪魚に猛進する。
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