ー 竜神の聖剣 ー

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「ミロッ、シェラルドッ、お前たちは下がってろッ」 「へっ!?」 「国王陛下!?」  半ば押しのけるように2人を怪魚から遠ざけると、ダンデルクはそこから高く跳躍した。縦幅10センチもない船べりの手すりに片足を乗せた時には、そこを踏み台にして更に高く舞い上がっている。見えない階段でも上がるように虚空を駆け上がりながら、ダンデルクが左手で掴み取ったのは怪魚の鼻先から伸びる触覚だ。  イソギンチャクみたいに不気味に蠢く発光器官の根元を握ると、触覚をロープ代わりにして勢いよく怪魚に突進。ギョロリと動いた怪魚の眼球に、自分の姿が映る。自ら飛び込んでくる獲物に、怪魚が反応したのは素早かった。大きく口を開けてそのまま飲み込もうとする。 「ダンデルク様ッ!!」 「あああッ、国王陛下ぁぁぁッ」 「矢を撃てッ、怪魚の腹を狙うんだッ」  激しく交錯する絶叫と怪魚の咆哮が静寂を裂いた。けれど、空気を裂いたのは声だけじゃない。触覚を命綱代わりにして振り子のように宙を舞うダンデルクの剣、右手に握られた黒い聖剣が、ヒュィィィンと乾いた音を引きずって空を斬る。 「先祖伝来の剣の切れ味ッ、貴様で試させてもらうぞ!!」  右手の剣から伝わる風鳴りが鼓膜を叩く。ダンデルクは既に狙いを定めていた。これが聖剣の真価なのか、驚く事に、全く剣の重みを感じない。剣と腕が一体化したみたいな錯覚さえ覚える程、剣はしなやかに空気を裂いている。 「はあああああぁぁぁッ――!!」  木のツルで移動する猿めいた動きで、ダンデルクは触覚を掴んだまま怪魚のアゴ下に回り込んだ。その拍子に漆黒の剣を分厚い身に突き刺し、勢いに乗って下を通過。肉厚の、しかも発達した硬いアゴ骨があるにもかかわらず、剣の通りは水を切るようになめらかだった。
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