ー 竜神の聖剣 ー

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「どうすればいいッ…どうすればッ」  焦りと苛立ちで頭が煮えそうになるのを、ダンデルクは精神力を尽くしてどうにか落ち着かせた。冷静さを必死に保ったまま打開策を考える。こんな所で足止めを食っている場合じゃない。悪魔の塔で愛しい妻が待っているのだ。 「…フローディアッ…」  焦れば焦る程、思考が空回りする。まるでその隙を見計らったようなタイミングで、突然、湖面が泡だった。特殊合金製の戦艦を食い破る事は不可能だと悟ったのか、湖水の中から青い円錐貝が一匹勢いよく飛びかかってきた。 「ダンデルク様ッ」 「下がれグラメル!」  ほぼ反射的に、傍らの賢者を突き飛ばした瞬間には、ダンデルクは漆黒の剣で標的を捉えていた。神経を研ぎ澄ましたダンデルクの目には、飛来した貝の動きは数秒ごとに時間が止まり、それが小刻みに連動して動いているように見えている為、この程度の速度ならば目を閉じていても斬れたが、他の者たちには太刀筋すら見えなかったのだろう。  実際、グラメルが尻もちをつくより先に、4分割された魔界の貝が甲板に転がった。殻に詰まった中身からは青緑色の血が溢れ、斬られて尚生きている十数本の黒い蛇のような触手がのたうち回っている。  触手の先にある牙の生えた口はすぐに動かなくなったが、喜んではいられなかった。揺れる戦艦の周りを旋回していた巨影が泳ぐのを止めた直後、吹き矢みたいに次々と貝が甲板めがけて飛び掛かって来たのだ。一斉に飛来する貝の軍勢に、剣や棍棒で従者達が応戦する。 「ぬおッ、なんとすばしっこい貝だ!」 「騎士長様ッ、物凄い数ですッ」 「ダメだ! これじゃキリがありませんッ」  湖水から飛来する貝の群れは、戦闘時の弓兵達が放つ矢の雨にも匹敵する数だった。いくら神の武器を使っているとは言え限界がある。事実、戦況はかなり不利だった。  こうしている間に、もしも帝国人に見つかりでもしたら、それこそ一貫の終わり。早くこの戦況を打開しなければ、ほとんど骨だけになってしまったあの怪魚と同じ運命を辿る事になりかねない。飛来する貝を弾くように斬りながら、ダンデルクは声を張り上げた。
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