ー 竜神の聖剣 ー

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「皆ッ、とにかく今は集中しろッ」 「ですが国王陛下ッ、貝は湖底からどんどん沸いてきています!」 「くッ…」  奥歯を噛みしめながら、ダンデルクは呻いた。次々に飛び掛かって来る貝の残骸がそこら中に散らばる所為で、足元が悪く船も揺れる。今取るべき最善の方法を、ダンデルクは既に導き出していた。最後の手段だがもうそれしか方法はない。激しい罪悪感に潰されそうになる心に鞭打って、ダンデルクは決然と従者達を振り返った。  湖水から飛び出す貝に悪戦苦闘している仲間たち。ここまで一緒に付いてきてくれた彼らを見殺しにする事だけは絶対にすまいと思っていたが、フローディアの命には代えられなかった。 「…皆…巻き込んですまん…」  ダンデルクの唇から漏れた声は、誰にも聞こえなかった。剣で斬り倒し、棍棒で叩き割り、必死に貝の群れと戦う従者達に、ダンデルクは断腸の思いで背を向けた。岸に船尾を向けた格好の戦艦は、まだ(いかり)が降りていないので不安定だが、飛び降りられない事はない。船尾を見据えながら剣を握り直して、ダンデルクは大声で叫んだ。 「チェスッ、船を出せッ。貝に追いつかれん速度を保って湖を旋回するんだッ」  操舵室から航海士が顔を出した。 「お言葉ですが陛下ッ、それでは上陸できません!」 「構わんッ、塔へは俺1人で行く! 皆はここに残って船を守りながら待機せよ! フローディアを救出したら予定通り青い閃光玉(はなび)を打ち上げる! 必ず彼女を連れて戻ってくるゆえ、それまで絶対に持ち堪えろ!!」 「お1人で!? しかしッ…」  困惑する航海士の声を振り切って、ダンデルクが駆け出そうとした寸前。 「待って下さいダンデルク様ッ」  丁寧だが反論を許さない硬い響きのある声が、咄嗟にダンデルクを引き留めた。貝の攻撃をあたふたと応戦していたグラメルが、別人のように真剣な表情を浮かべて訴えたのだ。
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