ー 竜神の聖剣 ー

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「冷静になって下さいッ。これは剣闘大会ではありませんッ、戦争(・・)なんです! いくらあなたが大剣豪でも、剣の腕だけじゃ乗り切れませんッ。(いくさ)の勝敗は戦術で決まるんですッ。私達の勝利はすなわちフローディア様を救出する事! 勝つにはここにいる全員の力が必要です。ここは私にお任せ下さい!」 「グラメル…!」  沸騰していた頭に冷や水をかけられて、ダンデルクは我に返った。それを悟ったような間合いで、ふとグラメルの顔に優しげな笑みが戻る。片眼鏡の奥で瞳を知的に光らせながら、王国一の賢者は操舵室に向けて声を張った。 「チェスっ、速度杖(ギア)の横にガラスケースが被された銀色の丸いボタンがあるでしょう! それを押しなさい! 急いで!」 「銀色のボタンですかっ? えっと…あっ、はいッ」  操舵室に戻った航海士の背中が左右に揺れる。該当物を探しているのか、大きく揺れていた背中が、不意に強張った次の瞬間――― 「うわぁッ、なんだ!?」 「おいッ、手すりから離れろッ」 「全員甲板の真ん中に移動するんだ!」  いきなり戦艦の表面が青く発光した。甲板と船べり、操舵室以外は全て、淡い青色の光が膜のように戦艦全体を包み込んでいる。それを見てようやく、ダンデルクもピンときた。 「電子防御盾(フィールド)かっ…!」  淡い光は細かな電気分子で形成されている。いわば強烈な静電気の膜。外側に向けてヒヨコの足によく似た細い光がバチバチと放出され、飛んできた貝たちが漁網にかかった魚みたいに虚空で止まる。激しく痙攣する殻からは白い湯気が立ち、次々にボロボロと湖水に落ちた。プカプカ浮かぶ仲間の様子を察知したのだろう。群れていた貝の軍団は湖底に沈んでゆく。 「これでよしっと! とりあえず電子防御盾(フィールド)が効いているうちは貝たちも大人しくしてるでしょう。ただ、私達もリスクを背負ってしまいましたねぇ」  剣をしまったグラメルの様子は、周囲でホッと胸を撫で下ろして歓喜に沸く従者達とは対照的だった。懐中時計を見つめて溜息をつくと、申し訳なさそうに語りかけてきた。
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