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「ダンデルク様、先を急ぎましょう。これは本来巡視船として使われる中型戦艦ですから、発電石も余裕がありません。電子防御盾は素電子の消耗が激しいですからね。帰る事を考えると、もってあと5時間が限界だと思います」
絶望的な状況だったが、ダンデルクは素直に受け入れた。悩んでも仕方がない。とにかくやり切るしかないと腹を括る。ダンデルクは混乱の中でも冷静さを失わなかった賢者を改めて見返すと、感謝と尊敬の念を密かに込めて言った。
「参ろう。メフィスタの塔はすぐそこだ。行って、フローディアを取り返すぞ」
「はい、ダンデルク様。きっとフローディア様も待っておられますよ」
柔らかい笑顔から視線を操舵室に滑らせて、ダンデルクは指示を出しながら聖剣を鞘に収めた。
「チェス! 船尾を開けろっ…皆っ、準備は良いか? 上陸するぞ!」
甲板の全員が頷いたのと同時に、船尾が開いて岸に掛かる。鋼鉄の橋の重みで少し崩れた岸の土砂が、湖水に弾けて沈んでいった。操舵室から出て来た航海士に続いて、甲板に顔を出したのは赤毛の兵士だ。
鳥の巣みたいな髪の下で強張る顔はまだ幼く、勇ましいロイヤルブルーの戦闘服も若干サイズが大きいようで、袖口を2つに折り返している。航海士の隣でスコップを握りしめたまま、若い機関士は精一杯胸を張って背筋を伸ばした。
「甲板の貝どもは僕が掃除致します! 航海士殿と共に陛下がお戻りになるまでっ、全力でこの船を守ってみせます!」
膝がカクカク震えているのは見なかった事にして、ダンデルクは頼もしい申し出に笑顔で応じた。
「よくぞ申してくれた。必ず王妃を連れ帰るゆえ、その間の留守を頼んだぞ」
「はいっ」
「いってらっしゃいませ、国王陛下」
敬礼する2人に背を向け、ダンデルクは船尾の橋に向かって駆け出した。
「では皆っ、行くぞ!」
「はいッ」
「皆っ、陛下に続け!」
「ささっ、参りましょう!」
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