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残り時間は、あと3時間。
焦る気持ちを抑えてダンデルクは船を降りると、遥か奥に広がる淡い黄緑色の光に向かい走り出した。後ろから従者達がついてくる気配を感じ取りながら、駆け足で暗い林を横断する。
魔界の雑木林は、静かだった。
船から見えた光る地面の正体は、どうやらコケらしい。太い樹の根元や岩の上など、表面を覆うコケが黄緑色に発光して周囲を薄らぼんやりと照らしている。炭化したような表皮で覆われた樹木が点々と立つ雑木林に、生物は見当たらない。鳥一羽、虫一匹おらず、辺りはひっそりと静まり返っている。
地表で波打つ太い樹の根や落ちた枝につまづかないよう注意しながら、ダンデルクは林の奥を目指してひたすら走った。
どのぐらい進んだだろう。
およそ林の半分まで来ると、急に開けた場所に出た。所々にある背の低い影は伐採した木の切り株なのか、その一帯だけ、間引きしたように樹と樹の間隔が広がっている。
「ハァ…ダンデルク様っ、ここから…ハァ、空気が、違い、ますね…」
「ああ…ハァ、嫌な、感じだな…」
さすがにダンデルクも息が切れた。立ち止まったすぐ横で、肩で息をしながらグラメルが呟いた通り、確かにここから空気の質がガラリと変わっていた。
雨が降った後の森林、とでも言おうか、湿気が高いわりに空気は冷えている。水気も風もないのに、この湿気はどこから来るのだろうか。異様な気配が満ちているが、しかしここを通らなければ先へは進めない。ダンデルクは背後に並ぶ従者達を振り返った。
「この先、どんな魔の生物がいるかもわからん。皆、用心しながら進め」
「はい、陛下」
「御意ッ」
頷いた従者達に後ろを預けて、ダンデルクは先頭を切って進んだ。樹が少なく枝がない分、上空で揺れるオーロラの明かりが届いて少しだけ明るい。赤紫色の仄かな明かりの中を、ダンデルクが警戒しながら慎重に歩いていた時、傍らで誰かが短い悲鳴を上げた。
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