96人が本棚に入れています
本棚に追加
「うわっ…あ、なんだ、苗木か…」
ダンデルクが振り返ると、神騎士のトロイが剣を抜こうとして身構えたところだった。どうやら背丈の短い木の枝に驚いたらしい。ほっと胸を撫で下ろしている若い神騎士に、シェラルドが駆け寄っていく。
「どうしたトロイ、大丈夫か?」
「騎士長様、すいません。ただの木でした」
ダンデルクは苦笑いした。
「トロイよ、そんな木に驚いてたら、この先ずっと驚いてないとならんぞ」
「失礼しました…国王陛下、足をお止めして申し訳ありません」
「構わん…皆、先を急ごう」
再び歩き始めつつも、ダンデルクはさっきから妙な気配を感じていた。誰かに見られているような、林の木々そのものが自分達を見ているような、そういう視線を感じるのだ。今更だがよく見ると、この一帯の木は明らかに種類が違っていた。
湖に面した漆黒の木々とは違い、ここら一帯の木々は表皮が白く根が太い。土から生え出た根にはコケが生え、そこから血管のような赤いツルが幹にいくつも突き刺さっている。大きく膨らんだ根元から緩やかな曲線を描いて伸びる幹には、人の腰を思わせるクビレがあり、表面には女性の乳房のような2つの膨らみがあった。そこからまた、左右に大きく分かれた枝の狭間にも、人の頭部ほどに膨らんだコブがあり……
「…まさかッ…!」
「ダンデルク様、どうなさいました?」
思考を突き刺した強烈な危機感に、ダンデルクは立ち止まった。慌ただしく周囲を見れば、同じような木がいくつも地面から生えている。それぞれ形は違うが、いずれの木も同じく人間を形取っていた。
尻から下を大地に飲み込まれた人の形。両手で虚空を掻き毟って必死にもがいたまま凝固してしまった人の形だ。大きなコブは頭だろうか。見開いた目。ツンと尖った鼻。口らしき穴もあった。大きく開いた穴からは、今にもおどろおどろしい断末魔の悲鳴が響いてきそうな気配さえする。
最初のコメントを投稿しよう!