- 花冠の乙女 -

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 髪を短く刈り上げた副隊長の端正な顔は、焦りと恐怖で真っ白だった。だが叫び声には揺るぎない覚悟がこもっている。グラメルは片眼鏡の奥から友の顔を見返した。知的な雰囲気を匂わす端麗なグラメルの顔も、今や瞳の色と同じぐらい青ざめてしまっている。  それでも、グラメルは自分の果たすべき役目を忘れたわけではなかった。  そう、守るべきは城でもなければ国でもない。  "王"と、その"血脈"。  崩れそうな心を奮い立たせて、グラメルは副隊長にうなづいた。彼の決死の覚悟を無駄にするわけにはいかない。断腸の思いで友に背を向けると、グラメルは王座の前で固まっている宮使い達のところに駆け寄った。  本来、王族だけが通行できる大通路はそのまま控室に通じ、バルコニーから中庭に抜けることができる。掃除中だったのだろう、幸い大通路の扉は開けっ放しだ。 「さぁ皆さんッ、こっちです!」  開け放たれた大通路を指さして、グラメルは大声で叫んだ。 「早くッ、東の悪魔どもが来る前に逃げなさい! ほら立ってッ、みんな行くんです! 中庭に出たら菜園を通ってそのまま大神殿に避難してください!」
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