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"東の悪魔"と聞くなり、ギョッと目を剥いた宮使い達が一斉に走り出した。清掃員、女官、庭師、給仕員、みんなが駆け足で大ホールを横切っていく中、宮使い達が切迫した声で次々に訴えかけてくる。
「シトラウス様も一緒に参りましょう!」
「そうですよグラメル様っ、私達と共に逃げましょう!」
「長官殿も我々と大神殿へ!」
「ありがとう…けれど私は陛下の元に参ります」
泣き出しそうな顔の宮使い達が足を止める寸前、グラメルは立ち止まるなというように大通路へもう一度指さした。王は今、2階の応接室で親族たちと懇談中。王座の間から2階へ上がるには、黄金扉を挟むように2階から伸びる階段だけ。それを横目で見てから、グラメルは大声で宮使い達の背中を押した。
「私は陛下と運命を共にします! あなた達は避難に集中しなさい! さあッ、行くんです!」
泣きながら、宮使い達が大通路に駆け込んでゆく。最後の1人が消えたのと同時に、グラメルは壁側の階段を目指して走った。西の玄関を抜けるより、ここから階段を上がった方が応接室に近い。今は1秒たりとも無駄にできないのだ。
「セージュっ、どうか陛下の避難が終わるまで踏ん張って下さいね!」
走りながら、グラメルは親衛隊員たちへ指示を飛ばす副隊長に叫んだ。
「陛下たちの避難が終わったらっ、あなた達も城を放棄して速やかに大神殿に逃げるのですよ! いいですね!」
「わかりましたっ、ここは我らにお任せください!」
「大神殿で会いましょう!」
巨大な黄金扉の前では、群がった親衛隊員たちが椅子や石膏像など手当たり次第に運んできては、必死にバリケードを作っている。その前で指揮を執る副隊長は、泣き笑いのような顔で応えた。
「国王陛下をお願いしますッ…長官にバーチェスト神のご加護を!!」
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