- 花冠の乙女 -

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 2000人を収容できる広い王座の間に反響した副隊長の声は、悲鳴のようだった。グラメルは瞳に滲む涙を人知れず飲み込んだ。迫る驚異の大きさは、彼が一番よくわかっているはず。だからこそ、グラメルは戦いに挑む勇敢な友へ祈るような気持ちで訴えた。 「セージュっ、あなたにもバーチェスト神のご加護っ…え!?」  それは、あまりにも突然のことだった。思わずグラメルは立ち止った。複雑な電子回路を持つ"電磁錠(ラグナロック)"に守られた扉。重厚な黄金扉の中央にある円状の鍵は、翼を広げた竜の形を模したもの。王家の紋章を象った竜神の鍵は、翼を閉じた状態で扉を封じていたはずだった。しかしーーー 「バカなッ、電磁錠(ラグナロック)が解除されたッ!?」  グラメルは目を疑った。ありえない。電磁錠(ラグナロック)は城内部の中央制御室で管理されているのだ。外の魔物どもに解除できようはずもない。だが現実に、鍵は開けられた。ゴトンと重々しい音と共に、竜神の翼が広がったのだ。  次の瞬間、凄まじい爆発で扉が砕け散った。 「くぁああああああっーー!」  爆風で吹き飛んだグラメルの体が、放物線を描いて宙を舞った。白い大理石の床に背中を打ち付けられた衝撃で、一瞬呼吸が詰まった。左目から弾け飛んだ片眼鏡と、胸につけたレンゲソウが床に散った直後、扉の欠片や隊員たちの肉片が豪雨のように降ってくる。 「うっ……!」  体を打った痛みと激しい耳鳴りに顔を歪めながらも、グラメルはどうにか床から身を起こした。かすめ取るようにして片眼鏡を掴んで掛け直し、床に倒れたレンゲソウを懐にしまい込む。辺りは悲惨な状況だった。だが、グラメルに周囲を気にする余裕はなかった。激痛に勝る純粋な恐怖から、反射的にグラメルは腰につけた剣を(さや)から引き抜いていた。
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