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親衛隊員たちと魔物が激しくぶつかり合う血生臭い地獄絵図を、グラメルは震えながら眺めやった。動きこそ速くないが、魔物との戦闘力の差は圧倒的だった。ある者は生きながらに内蔵をむしり取られ、またある者は両腕を引きちぎられている。
これが地獄でなくして、何だというだろう。
あまりに悲惨な光景を前に、グラメルが戦意を失いかけた時だった。視界の端に、クモみたいな動きで窓ガラスをよじ登り、2階へ這い上がっていく外の魔物どもの姿が映った。
「2階っ…国王陛下!!」
腹の底から湧き上がる激情が、普段は決して乱れることのない温厚なグラメルの心を震わせ、突き動かしていた。寸前の絶望感や恐怖は蒸発してしまっている。剣のグリップを握り直すと、グラメルは階段に向かって走った。
立ち塞がる魔物を斬り倒し、血溜まりの中に横たわる親衛隊員の死体を飛び越え、悲鳴も、雄叫びも、助けを求める声さえ振り切って、グラメルは国王のいる2階に駆け上がった。
ーーー時は、2日前にさかのぼる。
柔らかい太陽の光輪がほんのりと、澄んだ青空に広がっている。貿易港一帯の厳戒戦闘態勢が解除されたこの時間、裏通りを挟んで集積場と隣接する市場地帯は、お茶の香りと陽気な音楽と、咲き誇る花々の芳醇なアロマで溢れていた。
メルフィンティ王国の首都、アテナの朝の目覚めは早い。
東の物資輸送船はいつも、夜明けと共にやって来る。海峡を監視する2つの塔が船の到着を知らせる警鐘は、同時に王国の一日の始まりを知らせる目覚まし時計の音色でもあった。
「いや~、今日も良いお天気ですねぇ」
華やかな都の中でも特に、物流の中心地である貿易港一帯は賑やかだ。王の居城から市場地帯まで、距離にすればたった数キロ。検疫を済ませた東大陸からの荷物は全て、断絶扉の奥の波止場からこの集積場に運び込まれる。扉が閉じた後の集積場は、東大陸から届いた木箱で埋め尽くされていた。検品区域では武装した警備兵たちと作業員たちが入り乱れ、慌ただしく次の仕分け区域に物資を送っている。
「あ~…気持ちいいなぁ」
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