ギリギリの義理チョコ

「バレンタインデーなんて大嫌い」
　ショッピングモールの特設チョコレート売り場に並んでいた私は、ため息とともにそんな言葉をこぼしてしまった。
　世の中は空前の義理チョコブーム。あっちこっちでたくさんのチョコレートが陳列されて、義理チョコ専用のコーナーが所狭しと作られている。
「義理チョコを３ケースと、ギリの義理チョコを５ケース。それにギリギリの義理チョコを８ケースください」
　私の前に並んだＯＬっぽいお姉さんがチョコを注文している。手渡された合計１６ケースのチョコレートたちを運ぶため、お姉さんは大きなトランクを重そうに引きずっていった。
　１時間ほどならんで、ようやく私の注文する番が回ってきた。
「いらっしゃいませ」
「えっと、義理チョコを１ケースと、ギリの義理チョコを２ケース。それと、ギリギリの義理チョコを３ケースください」
「はい、かしこまりました」
　笑顔の店員さんが奥でチョコレートの山を準備しているのをぼんやりと眺めながら、私はどうしてこんなことをしているのだろうと不思議な気持ちに包まれた。